ホールディングタンク

ヨット

皆さんはホールディングタンクをお持ちだろうか?マリーナ内などでトイレの汚水を一時的に貯めておくタンクである。後付けできるキットのような製品は見たことがないし、ネットで探してもホールディングタンクに関する記事はあまり多くない。いくつかDIYの記事があって、配管構成などの情報もあったが、なかなか大変そう。なんとかシンプルに自艇に設置できないか?

構想

とにかくいろいろ考えた。ネットで情報を探してもあまり多くの情報は見つからない。海外では、マリーナ長期滞在時に、マリーナのバキューム設備で汚水を吸い出してくれるようなところもあるらしいが、そのためには吸い出し口の設置も必要でより複雑になる。私の考えた基本コンセプトは下記。

  • できるだけシンプル
  • 変化点は最小限
  • スルハル追加無し
  • 容量はそんなに大きくなくていい(シングルハンド想定)

自艇の構造、トイレ位置、スペース等を考慮しながら、何度も何度も考えた。ある構想に辿り着いてから、より具体的な検討を進める中で、また構想が変化することもあった。常にこのことだけを考えていたわけではないので、考え始めてから最終構想まで1か月くらいかかっただろうか。途中の構想もその時点ではベストだと思っている訳だが、新しい構想を思いつくと古い構想には大きな無駄があることに気付いたりする。なぜそんな無駄に気付かなかったのか?と不思議になるくらいだが、新しいことを考えるとはそんなものかもしれない。そして最終的に辿り着いた構想図が下図である。左がホールディングタンク設置前のトイレ、右が設置後である。もっといい答えがあるのかも知れないが、現時点の私の中ではこれがベスト。ただこれは私のコンセプトの場合であって、人によってベストな構成は異なると思う。

図中のVはボールバルブ。JABSCOのマリントイレを使っているがこの部分は省略。従来トイレの排水ボールバルブの直上にチーズ(T型3方向継手)を取り付け、そこから横方向少し上に向かって配管を構成し、その先にホールディングタンクを取り付け。ホールディングタンク上部にはタンクへの汚水の出入りをスムーズに行うための空気通路を設置。外部に排出可能で排出ボールバルブを開いている時は、従来と同じように流れ、外部に排出できない時に排出ボールバルブを閉じた状態では、汚水はホールディングタンク内に溜まるはず。排水はマリントイレのポンプで排出するが、排水ホースの最高部を超えると自重でタンク内に流れ込む。なので、排水ホースの最高部をタンク上部より少し高くすれば、タンク容量をフルに活用できることになる。タンク内の汚水を排出するときには、排出ボールバルブを開くだけで、自重で排出される。排水ホースの最高部を余り高くすると、最高部を超えない汚水はマリントイレ出口に取り付けられているジョーカーバルブ(逆止弁、下写真)に作用することとなるが、この力が大きくなればジョーカーバルブを痛めたり、逆流漏れが発生してトイレ内水面が上昇する懸念もあったが、排水ホースの最高部を従来より少し高くするくらいなら問題ないだろう、また様子を見て必要なら最高部高さを調整すればいいと考えた。ただ、構想は構想で、狭いヨットスペース内でうまくホース取り回しができるか、また本当に思い通り作動するかどうかは、実物で試してみるまで不安ではあった。

取付作業

タンク設置台

タンクを設置する台は、後から高さや傾きが微調整できるようにしたいということも考え、G-funというアルミ部品を使った。いろいろ検討して骨組み構造を決めて製作。実際に設置において、やはり設置してみないとわからない高さ調整や傾き調整が必要となり、G-funを使って本当に良かったと感じた。

設置台の一部として、骨組みの上に置く板は合板より作成。

タンク

専用部品などは販売されていないので、何を流用するかが課題であった。最終的にシングルハンドでの使用で容量を求めないこと、また設置可能スペースより、20Lワイド灯油ポリタンクを使うこととした。1000円弱で市販されている灯油ポリタンクには、2個の口があり、ポリタンクを横向けに置くことで丁度1個の口が汚水出入口として、またもう1個の口が空気穴として使用できる位置になる。汚水出入口はキャップにΦ38mm程度の穴を開け、ポンプ部品として市販されているタケノコを中から通してキャップを閉めれば完成。空気穴もキャップにネジより少し小さめの穴を開け、こちらはねじ付き金属製タケノコを外からねじ込んで接着剤で固めて完成。後はそれぞれホースを繋げば大丈夫なはず。

チーズとホース

これが最も苦労した。まず排水ボールバルブと排水ホースの間にはタケノコが付いていてこれを外す必要があるが、硬くて外れない。下写真部である。

開口幅が広い配管用スパナも2個購入したが(下写真)、船内は狭くて自由な態勢が取れないことや、スパナの取っ手の長さが短いこともあって、全く緩まない。

スパナ取っ手部分を適度な内径の長い金属パイプに入れて、てこの原理で動かそうとしたが、金属パイプ肉厚が薄かったためか金属パイプが破れた。最後はバーナーで炙り、2つのスパナを上下で重なるように取付け、2つのスパナの取っ手部端部の穴に太いドライバーを通して、スパナを回したい方向に回るようにドライバーを傾ける方法を取った。文章にすると難しく理解していただけるであろうか? バーナーの効果がどれだけあったかは分からないが、この方法で初めて緩み始めた。後はスパナの位置を少しずつ変えながら作業を繰り返すことで、無事タケノコを外すことができた。文字にするとこれだけだが、いろいろ悩んだり追加準備しながらやってるので、この作業に数日かかっている。ただ、いろいろな方向に力を掛けすぎたためか、ハルとの取り付け部が少し緩んで回ってしまった。ハル取り付け部のナットを増し締め(といってもほとんど動かないが)し、海水が滲んだりしていないので、様子見することとした。これが外れれば、次はこの部分にチーズを取り付け、またタケノコを取り付けてホースを設置していく。このチーズは基本水圧はかからないし、ボールバルブさえ閉めていればリスクも低いので樹脂製を選択(金属よりずっと安い)した。樹脂製テーパネジが一般的にそうなのか、このメーカーの部品だけなのかはわからないが、シールテープを厚く巻かないとネジが最後まで回っても少し緩い状態で気密が不十分になってしまった。しかしシールテープを厚く巻き直したあとは問題なし。チーズ周りの組付け後写真が下記である。右横方向へのホースはタンクに繋がっている。上方向はトイレに繋がっている。

トイレからチーズまでのホースは、最初は元々設置されていたホースをそのまま使おうとした。しかし、チーズを取り付けたためホース接続位置が高くなり、ホースに急な曲げが生じるため、壁に新たな穴をホールソーで開けて取り付ける必要があり少し長いホースが必要なこと、また元々のホースは非常に硬化していて曲げたいように曲がりにくいこともあったので、新品に交換した。

完成、そして作動テスト

こうして完成した状態が下記写真である。

壁の左上部に開いてる穴は元々ホースが通っていた穴である。まずは排出ボールバルブを閉じて、マリントイレのポンプでトイレ給水&排水。すると構想通り、排水ホース最高部を通過した排水は自重でホールディングタンク内に流れ込み、ホールディングタンクに水が溜まっていくことが確認できた。想定外に嬉しかったのは、最後にマリントイレを排水のみにして作動させると、空気が排出され、空気の力でホース内の水を押し出してくれるので、排水ホースの最高部とマリントイレ出口(ジョーカーバルブ部)間で約75cmの高低差があるのだが、水面高さが75cm→40cm程度まで下がったことである。これでジョーカーバルブへの負荷が小さくなり、仮に劣化して漏れてもトイレ内に逆流する水量が減る。ホールディングタンクに水を溜めて暫く放置し、漏れ無き事を確認後、排水ボールバルブを開放すると、これも構想通りタンク内の水を排出することができた。今回は海水のみでのテストであり、実際に固形物?を含む汚水になったときでも同様に作動するかな?という一抹の不安は残るが、そのテストはもう暫く先になりそうである。

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